望月茉梨藻 [著]

2025年12月18日、データ横丁の人気分科会「メタデータ通り」のMeetupが開催されました。今回の会場は、歴史ある日本記者クラブ。格式高い雰囲気のなか、2025年の締めくくりとして「使い方:メタデータの活用・高度化」というテーマでイベントがスタート 。
第2回で「考え方(マインドセット)」を整理し、第3回での「進め方(プロセス)」の議論を経て、ついに踏み込むのは「実際に組織の中でどう機能させるか」という核心部分です。会場には、所属企業の枠組みを脱ぎ捨て、一人の実務者として課題に向き合う熱い志を持ったメンバーが集結しました 。
拡張される「使い手」:人、そしてAIという新たなパートナー
冒頭、世話人の板谷健司氏から提示されたのは、メタデータの「使い手」が劇的に変化しているという現状分析でした。
かつてメタデータは、システム部門や一部のデータサイエンティストが、データの場所や型を確認するための「専門家のための道具」でした 。しかし、データの民主化が進み、事業部門の担当者が自らデータを扱う「シチズン・データサイエンティスト」の時代が到来したことで、専門用語ではない「ビジネスの文脈」としてのメタデータが不可欠となりました 。
さらに現在、私たちは「生成AI」という新たな使い手を迎えています 。板谷氏は、AI時代におけるメタデータの役割を「AIトランスフォーメーション(AX)」の文脈で再定義しました。
- AIは「阿吽の呼吸」を読み取れない: 人間同士であれば、「これまでの慣習」や「組織の常識」で補完できる情報の欠落も、AIにとっては致命的なノイズとなります 。AIにデータを正しく扱わせるためには、これまで人の頭の中にしかなかった「暗黙知」や「データの背景(コンテキスト)」を、AIが理解可能な形式で定義し直す必要があります 。
- 「守り」の管理から「攻め」の活用へ: 単なるデータカタログとしての「Data Discovery」に留まらず、ビジネスの意思決定を能動的に支援する「Data Activation」への転換が求められています 。
この変革を推進するためには、技術理解とビジネス戦略を両立させ、組織に横串を通す「CAIO(Chief AI Officer)」のような存在が、これからの企業には欠かせないのではないか。板谷氏の問いかけは、会場の参加者にとって、自らの役割を再考する大きな契機となりました 。
デモンストレーション:実務に溶け込む「メタデータの現在地」
続いて行われた実演デモでは、次世代のデータカタログがどのように活用の現場を支えるのか、具体的な利用シーンが示されました 。
印象的だったのは、ユーザーの属性に応じた「二つの探索経路」の提示です。
- テクニカル・メタデータを起点とする探索: エンジニアやアナリストが、テーブル名やカラム名といった技術的キーワードで「素材」を探し、データの鮮度やライフサイクルを確認する、従来型の効率的なアプローチです 。
- ビジネス・メタデータを起点とする探索: 事業部門のユーザーが、「販促分析」や「顧客セグメント」といったビジネス上の「目的タグ」から過去の分析事例を探し、そこに関連付けられたデータへと辿り着くアプローチです 。
特に注目したいのは、データの「リネージ(系譜)」機能です 。そのデータがどのシステムから生成され、どのダッシュボードで利用されているのか、その繋がりが視覚化されることで、利用者は「このデータは信じて良いのか」という不安から解放されます 。メタデータは単なる「ラベル」ではなく、利用者に「安心」を届けるためのインフラであるという事実が、デモを通じて改めて浮き彫りになりました。
グループ討議:現場のリアルと「正義」の所在
セッションの後半は、二つのグループに分かれた集中討議へと移りました。板谷さんのインプットを踏まえ、各グループに分かれて討議を行います。
日々抱えている課題から、今日得た気付きまで議論は白熱し、両チームとも「時間が全然足りない」「あっという間に終わってしまった」という声が聞かれました。
グループ1:「ビジネスロジック」の欠落と組織の壁
グループ1の発表では、多くの企業が直面している「自動化の理想と現実」のギャップが浮き彫りになりました。


グループ2:「コンテキスト(背景)」こそがAIの命
グループ2では、AI活用を前提とした際の「メタデータの質」と、現場への「実効性」について深い議論が交わされました。
- 確率論を支える「背景」の可視化: AIは本質的に「確率論」で動く存在です 。だからこそ、AIが出す答えの正確性を高めるためには、投入するデータの「背景(コンテキスト)」や「形式」が揃っていることが「命」になります 。データがどこから来たのかという「リネージ(系譜)」が明確であることは、AIにとっても、それを使う人間にとっても、信頼の拠り所となります 。
- 現場の役に立たないものは使わない: 議論の中で最も力強く語られたのは、「現場の役に立たないものは、どんなに集めても使われない」という冷徹なまでの現実主義です 。膨大なデータを闇雲にタグ付けするのではなく、取得したデータが分析され、現場の意思決定に寄与して初めて、メタデータは価値を持ちます 。
- KPI/KGIの設定による目的の明確化: 「理想から始めたものの、現場の心がついてこない」という課題に対し、まずは目的に対するKPI/KGIを明確に設定し、それによって「会社としてやるべきこと」と「やらないこと」を峻別する。この「選択と集中」こそが、実効性を担保する鍵となります 。


質疑応答:ロジックを超えた先にある「正義」
両グループの発表後、議論はさらに本質的な問いへと発展しました。「ロジカルに攻めても動かない現場をどう変えるか」という問いに対し、エンターテインメント業界や製造業界の実務者から、重みのある言葉が投げかけられました。
- KPIは「方程式」ではない: 成功している組織では、KPIが最初から完璧な方程式として存在するわけではありません 。日々のオペレーションの中で「この数字が大事だ」という手応えを現場と経営が対話の中でピックアップし、後から付け足していく。この「とりあえずやってみる」という泥臭い積み重ねが、結果として顧客のエンゲージメント向上や利益に繋がっていきます 。
- 最後は「お客様にとって正義か」に立ち返る: どれほどロジカルに説明しても納得感が得られない時、最後にチームを動かすのは「それはお客様にとって正義か」という哲学的な問いです 。会社や自分の利益、あるいはシステムの整合性のためではなく、ユーザーにとって本当に正しいことなのか 。創業者の哲学や、組織が大切にしている「正義」に立ち返った時、バラバラだった組織のベクトルが初めて一つに重なる。データマネジメントの極致は、こうした人間的な「納得感」にあるという結論は、会場に深い共感を呼びました。
忘年会:議論の余熱とコミュニティの絆
イベントの最後は、2025年を締めくくる「プチ忘年会」が華やかに行われました 。Quollio Technologiesの辻悠太氏による「ここからの懇親会こそが、今日の本領発揮です!」という乾杯の挨拶を皮切りに、会場のあちこちで乾杯の音が響きました 。

日本酒を片手に、先ほどまでの議論では収まりきらなかった各社の苦労話がさらに深掘りされます。データマネジメントの良書やおいしいお菓子を揃えた「抽選会」も開催され、参加者からは歓声が上がりました 。
日本記者クラブという特別な場所で、職位や会社名を忘れて語り合うこの時間は、単なる情報の交換を超え、明日からまた孤独な現場で戦うための「勇気」を分かち合う場となっていました 。


まとめ:メタデータは「未来への対話」を紡ぐ言葉である
今回の「使い方」というテーマを通じて私たちが得た確信は、メタデータとは決して「過去の記録」を整理するためのものではない、ということです。
それは、AIという新しい知性と対話するための共通言語であり、組織の暗黙知を資産へと昇華させるための触媒です。そして何より、データに関わる人たちが「自分たちのデータに誇りを持つ」ための根拠でもあります。
「ベストを求めて動けないよりも、ベターな一歩を積み重ねる」 。 完璧なカタログがなくても、目の前の一人が「このデータがあって助かった」と言える瞬間を一つでも多く作ること。その地道な繰り返しの先にこそ、真のデータ活用社会が待っているのだと感じました。
次回のテーマは、参加者の熱いリクエストにより決定した「見つけ方」です 。 2026年、メタデータ通りの活動はさらに加速し、より実践的な知恵の交換の場として進化し続けます。皆さんの現場にある「課題」という名の宿題を携えて、またこの通りでお会いしましょう。
謝辞
本メタデータ通りの活動は、Quollio Technologiesのご協賛に支えられています。「業界全体のメタデータ管理をより良くしたい」という同社の理念に共感し、私たちデータ横丁もその思いを分かち合いながら活動を続けています。―「データ横丁」主宰 臼井琴美
望月 茉梨藻(もちづき まりも)
1990年生まれ。国際基督教大学卒。ジェンダーと社会構造を学んだのち、HRTech事業会社ビズリーチやスマートドライブにて業務設計・Salesforce運用を担当。業務データの整備や活用基盤の構築を通じて、メタデータや制度設計への関心を深める。現在はフリーランスとして、データに基づく業務改善や意思決定支援を行うほかライターとしても活動中。BizOps協会理事。
X:https://x.com/MarimonsterFun
note:https://note.com/marimoyoga

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